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その昔

心界でとある竜王族の男と魔族の女が恋に落ちました。
竜王族は 種族間のみでしか交わらない神聖な血筋です。
竜王族の男は 魔族の女との間に子をなす禁忌を犯しました。

 

二人の間には男子と女子の双子が生まれましたが

生まれてすぐに竜王族の力を封じられました。

その後 男は心竜王の命により懲罰をうけ

その間に 女は処分されました。

それを知った男は 後に懲罰房から姿を消したそうです。

 


魔族の女には親しい友人がいました。

女が子どもを身籠った時に乳母を務めた たった一人の味方です。
両親の悲劇と 残された双子の未来を憂いた彼女は

双子を心界の外の世界に逃がそうと試みます。
しかし その目論見は心竜王に知れており

あと少しのところで彼女は捕らえられてしまいます。
かろうじて

右手に抱いていた女児は 目の前の神霊門の中に放りました。
左手に抱いていた男児は 彼女もろとも捕らえられました。

その後 彼女の姿を見た者はいません。
 

心界に残された男児は

忌み子として その存在を秘密裏に

長い年月を牢に幽閉され過ごしました。
食事と寝床は与えられるものの

父母のぬくもりから離され 暗い檻の中でしか生きられない彼の心は

次第に闇に堕ちていきました。

 


そして男児が少年になる頃

彼の牢屋に何者かが忍び込みます。

 


侵入者は言いました

「あなたを救いにまいりました 我ら魔族の王になってください」
 

少年は言いました

「お前らの王になろうとは思わないが 俺は父と母を奪ったあの男を許さない」
 

少年は 魔族の助けを受けて牢から脱獄しました。

そして心竜王への復讐を誓います。
 

状況を理解した心竜王は

神霊門に放り込まれた もう一人の片割れの女児のことを思い出します。
女児の行方はとっくにわかっていましたが

潜在能力はあるものの その力を全く引き出せない彼女を

竜王族の血ではない と 存在を否定し放置していました。


 

心竜王は 彼らの問題は彼らで終わらせてもらおうと考えました。
 

心竜王は配下に命じます

 

「私の命を狙う魔族の不届き者がいる。

それを 幻界にいる私の娘に討伐してほしい。

彼女のもとに向かい 尽力し 下賤の者を退けよ。

これは《アヌビス戦争》後もなお幻界に跋扈したままの

魔族の鎮圧にも多大に影響する重要な任務だ。

これを《聖戦計画》とする」


心竜王は 禁忌の少女について

天人と自分の間に生まれた我が子だ と 真実を偽りました。

そして身の自由を約束する代わりに 禁忌の少年を殺せと言ったのです。
配下は知る由もなく 魔族討伐という表向きの大役に

心を躍らせて幻界へ向かったのでした。

心竜王は 竜王族という血筋への誇りが潔癖なまでに強く

禁忌を犯した愚かな男と

血筋を荒らした愚かな女と

その間に生まれた者に対して異様な拒絶をしているのです。


それがたとえ 血を分けた双子の弟であっても

その娘と息子であっても。

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